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★ 謝辞:本記事の朗読は、呉暁迪氏にご協力いただきました。
日本人の日々の生活の中でなくてはならない物の一つに印鑑があります。公的機関や会社などの組織で印鑑が使用される国は他にもありますが、日本のように個人が日常的に印鑑を使う国は、世界的に見ても珍しいと言えます。欧米では、個人の意思を証明するために署名が重要な意味を持つのに対し、日本では代わりに印鑑がその大切な役割を果たしています。
署名の代わりに使われる印鑑
印鑑は、用途に合わせて主に実印、銀行印、認印の3種類があります。実印とは、所轄の役所へ印鑑登録を済ませた上で、印鑑証明を受けた印章のことであり、一人に一本だけしか認められず、家族同士でも共有することができません。実印は不動産の売買契約、遺産相続、会社設立など重要な場面で求められる印鑑です。銀行印は、銀行などの金融機関で登録したもので、通帳開設のみならず、保険や証券の契約など金銭に関わること全般に使う印鑑のことです。銀行印は、右から左に横書きで彫るのが縁起が良いとされており、これはお金が縦に流れないようにという意味が込められているそうです。
印鑑登録を済ませた実印
認印は仕事での一般事務全般、家庭での軽微な契約や申請書、申込書などの書類に使う判子のことです。このように、使う目的によって複数の印鑑を持つ人が多いのですが、用途の他に、持ち主の職業や性別に適した印鑑の素材やサイズを選ぶこともできます。一般的に、実印は一生涯にわたって使えるものが良いので、耐久性に優れたチタンや黒水牛など高級な素材が選ばれる傾向があります。一方、認印はシャチハタを代表とするインク内蔵型のものから手頃な価格で入手できる木材系の判子が人気があります。
インク内蔵型のシャチハタ
日本では、個人の印として印鑑を押す習慣が定着したのは平安・鎌倉時代だとされています。押印はむしろ日本社会の象徴と言えるほど、日本人の意思決定や行動に大きな影響を与えてきました。企業などでは、書類に役職の低い社員から順に右から左へ捺印することは、集団の合意形成を重視する組織文化を端的に表しています。コロナ感染症の勃発で世界的にテレワークが当たり前になったこのご時世に、押印のためだけに出社しなければならない本末転倒な現象に違和感を抱く人も多いのではないでしょうか。
色々な素材でできた印鑑
紙への捺印が続けば、人々が効率よく仕事をこなし、より能力の発揮を目指した働き方が難しくなるのは想像に難くないでしょう。その結果、組織の競争力が低下し、目まぐるしく変化する時代に取り残されてしまいます。2020年9月16日に発足した菅内閣の河野行政改革担当相がデジタル化の推進に向けて、行政手続き上の押印の廃止を提案しました。これによって、印鑑登録が必要な83の手続きを除いたおよそ1万5000種類の手続きにおいて認印が廃止される見通しとなりました。
デジタル化の妨げになる押印文化
長い歴史を持ち、日本人に馴染みの深い印鑑が完全に消えてしまうのは望ましくないかもしれません。しかし、政府の行政改革を皮切りに、デジタル時代に相応しい新しい文化が創出され、日本社会全体が加速化する環境の変化により機敏に対応できるようになることを期待しています。
ハンコヤドットコム「はんこ・印鑑印材の選び方」
PRESIDENT Online「ハンコ廃止はハンコのためだけに非ず」日本の押印文化が抱える本当の問題点
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