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標高3776メートルの富士山は日本一の高さを誇る山で、山梨県と静岡県に跨って聳え立っています。その優美なシルエットは日本の象徴として広く知られ、2021年の東京夏季オリンピックでは、メイン会場の国立競技場の中央に富士山をモチーフにした舞台がお披露目しました。富士山の魅力は、その美しい姿や雄大な自然のみならず、独自の文化をも備え持っているところにあるのではないでしょうか。
新倉山浅間公園・春の富士山
今から遡ること300万年以上前、現在の富士山とその周辺一帯は、太平洋の底にありました。およそ20〜10万年前、愛鷹火山と小御岳火山による活発な噴火活動で一帯に陸地が出現し、約10万年前にこの二つの山に挟まれて誕生したのが富士山の原型である古富士です。古富士火山は幾度となく繰り返された噴火と数度の山体崩壊を経て、おおよそ1万年前から現在の新富士へと形を作っていきました。富士山の麓にある富士五湖は、繰り返す噴火の際に流れ出た溶岩流が大きな湖や川を堰き止めることで誕生した湖です。
夏の富士山と新幹線
富士山は現在、活発な火山活動がないものの、過去には大噴火を繰り返した歴史を持つ活火山です。八世紀以降、富士山の噴火は少なくとも10回記録されており、中でも「富士山三大噴火」と呼ばれる平安時代の「延暦の大噴火」、「貞観の大噴火」と江戸時代の「宝永の大噴火」は規模が最も大きく、具体的な記録が豊富に残されています。1707年に起きた宝永の大噴火を最後に、富士山は300年以上の間噴火しておらず、平穏な状態が続いていますが、この先いつでも噴火する可能性がある火山だと考えている学者が多いようです。
湖と秋の富士山
昔から富士山は人々の信仰の対象とされてきました。その起源は、富士山の度重なる火山活動に怒る神の姿を重ね、神仏が宿る山として崇拝されるようになったと言われています。富士山を遠くから仰ぎ見て崇拝する「遥拝」に始まり、噴火活動が収まった平安時代末期には頂上まで登山する「登拝」へと信仰の形が変わりました。江戸時代になると、「富士講」という民衆信仰に発展し、富士山への信仰心は現在まで受け継がれています。富士山はまた、時代と国境を超えて多くの文学家や芸術家を魅了し、インスピレーションを与えてきました。
富士登山
文学作品では、日本最古の歌集「万葉集」の中には富士山を詠む句が存在し、「竹取物語」や「伊勢物語」などにも物語の重要な要素として登場しています。富士山を描いた絵画の中でよく知られているのは、葛飾北斎の「富嶽三十六景」や歌川広重の「東海道五十三次」などです。これらの浮世絵は、海外にも伝わり、モネやゴッホなどの西洋画家にも多大な影響を与えたと言われています。富士山が2013年に世界文化遺産に登録できたのは、こういった文化的価値が認められたのが理由で、その正式登録名称の「富士山ー信仰の対象と芸術の源泉」からもそれを垣間見ることができます。
富嶽三十六景・凱風快晴
富士山が当初予定していた世界自然遺産としての登録が果たせなかったのは、登山者や観光客が多いことや、周りの開発が進んだことなど、人間の手が加わりすぎたことが理由のようです。毎年7月上旬から9月上旬までの登山シーズンになると、大勢の登山客で賑わう富士山は、今後も日本のシンボルであり続けるように、みんなの手によって守られていかざるを得ません。
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